(4) 動く時計の遅れ(時間の遅れ)
この項に関しましては、前の二つの項とは別の本を採用しています。
その理由は、説の誘導の仕方に納得し難い物が多く、解説がしづらかったからです。
問題は山程あったのですが、それをつついた所で所詮は、執筆者のミスとされるだけで相対論のミス
では無いとされるのが落ちだったので外しました。
ここでは、別の本(原島鮮著『力学』裳華房)に在った分を採用しています。
ただ、この本の原文は、専門書特有の非常に解りづらい書き方がしてありまして(内容は大した事
ないのですが)解説すると不必要にややこしくなりますので、最初から翻訳して紹介する事にしました。
なお原文は、静止系は 系、動いている系は
系となっていたのですが、これも、私の文章と
合わせる為に S 系・ 系 とします。
そして、式の番号も私の文章の番号に統一する事にします。
教科書では (原文はこちら)
「
系 の
軸上のある点
という所に時計が置いてある
とする。
この時計は 系 から見ると静止しているのであるが、S 系
から見ると速度 で動いている事になる。
さて、この という所で二つの事件が起こったとしよう。
そして、その二つの事件の起こった時刻を ,
とおこう。
次に、ここに、ローレンツ逆変換(2-1-10)
を持って来て、これに 系 での時刻
,
と座標の
とを代入して、その時の S 系 での
時刻 1 と
2 とを求めてみよう。
そうすると
(2-4-1)
が得られる。
この得られた 1,
2 よりS系 から見た所の両事件の間の時間間隔を求めてみよう。
それは
(2-4-2)
となる。
ところで、この式の右辺の は
系 で見た所の両事件の間の時間間隔であるから、
系 をメインにする為に、これを左側に出して
(2-4-3)
とおき、この式を言葉で表わして見れば
( 系での時間間隔)=
(S系での時間間隔)
= (S系での時間間隔)
となる。そして は常に1より小であったから、それをも考慮に入れるとこの式は
( 系での時間間隔)<(S系での時間間隔)
という事になるのである。
これは『同じ出来事の経過時間でも、U系 で測る方が S系 で測るよりも時間が短い』早い話が
『動いている系での方が静止系でよりも時間の進み方が少ない。つまり、時間が遅れる』」
と言ってるわけです。
確かに、これも文章の流れだけを何の気なしに読むと、そう思わせられます。
しかし、これも間違っています。
まず第一に、これも前項と同じ事ですが、ローレンツ逆変換 (2-1-10)
に 系 での二つの時刻
,
と時計の位置の座標の
とを代入すれば、S 系 での時刻
( 系 での
,
に対応する)が求まると勘違いしている事です。
この式は、そんな式ではありません。
これは、光の走った所の距離と時間の関係式ですから。
ここの誤りについても詳しく説明していきます。
教科書では 1 ,
2 ,
,
を時刻として設定していますが、それを代入する所のローレンツ
逆変換の ,
は時刻ではありません。これは光の走行時間です。
ローレンツ逆変換の は 図 2‐4‐2 の S 系 に於いて光が O点 から P点 まで走るのに掛かる時間
ですし、 は
系 に於いて光が O′点から P′点まで走るのに掛かる時間です。
けっして任意の時刻ではありません。
次に、教科書では を時計の置いてある位置として、
軸上の任意の点の座標に設定していますが、
ローレンツ逆変換の は任意の点の座標ではありません。
これは 図 2‐4‐2 の中の距離の です。
これは 系 に於いて光が O′点から P′点まで走った所の距離の
軸方向成分です。
座標と見なしても P′点の 座標に限られます。
けっして任意の点の座標などではありません。
その次に、アインシュタインや相対論の専門家が見落としている事に 《ローレンツ変換の は
時間と共に変動する》 という事があります。
ローレンツ変換の は、
= 0
の時は 0 ですが時間と共に大きくなり
= ∞(無限大)では
無限大になります。一定ではありません。
これは 軸上の距離だろうと、P′点の
座標だろうと同じ事です。
一方、設定の は時計の位置ですから動きません。これは不変です。こういう点からも、時計の
位置の をローレンツ変換の
に代入する事は間違いなのです。
とは言いましても、言ってる事の意味がわからないといけませんので、これを図でもって説明する
事にします。
図 2‐4‐4 を見て下さい。
動きの(参照図)
最初 0時の時には、S系 の原点 O と 系 の原点 O′は重なっています。
この時は、まだ光は発されていません。 従って P点・P′点は原点の中にあります。
故に = 0です。
次に光が 0 時に発射され1時間経った(つまり1時の)時の 図を 図2‐4‐5 とします。
時間がたつにつれ光の走行距離は伸びて行き、2時の時では1時の時のちょうど倍になります。
それが 図2‐4‐6 です。
図でわかります様に、1時の時のP1,P1′点と2時の時のP2,P2′点とでは位置が違います。
当然1時の時の と2時の時の
も位置が違います。
これがローレンツ変換の です。
それに対して時計の位置というのは動きませんから、1時であろうと2時であろうと同じ場所です。
この様に時計の位置の とローレンツ変換の
とでは意味が違うのです。
あー、それから、「光が一時間走ったら、とんでもない距離で、こんな比較なぞ出来ないぞ」という、
厳密な議論はやめて下さいね。これはあくまでも、単純化した話ですから。
というわけで、同じ位置での時間経過を云々する問題にローレンツ変換を使う事は出来ません。
ローレンツ変換は光の走った距離と時間の関係式ですから。
光の到達時刻が変われば到達位置も異なって来ます。
時刻は進んでいるのに、位置をそのままというわけには行きません。
そこの所の違いに気づかず混同して使うとおかしな事になります。
もっとも、そうは言いましても、このローレンツ変換の と時計の位置の
とを一致させる
方法が無いわけでもありません。
そこで、次はそれをやってみて、相対論の式が本当は何を言っているのかを調べてみましょう。
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