(2) ローレンツ収縮(動いている系の寸法は縮む)

 これは「動いている物体の寸法は、静止系から見ると実際より縮んで見える」という説です。


(a) 教科書では  (原文はこちら)

S系 で静止している長さ の棒を考える。棒は 軸に平行に置かれている物とする。

棒の両端の
S系 の座標を  とすると


                                      (2-3-1)


であって
これは に無関係である。

 
この棒を速度 で動いている から見たらその長さはどうなるであろうか。

から見ると棒は速度 − で動いており、その長さは で同時刻 に観測した

棒の 座標の差により与えられる筈である。
での長さを
とすると


                                                     (2-3-2)


であるが、変換 (2-1-10) により


        
       (2-3-3)


である事から


                       (2-3-4)


という関係が得られ


                                    (2-3-5)


となる。従って から見た棒の長さは の割合いで収縮して見える。同様に

静止している
軸に平行な棒の長さは、
S系 から見ると の割合いだけ収縮して見える。


となっています。

 これも、良く解からないと思われますので補足して説明します。


(b) 補足説明
 

まず、S系 に置いてある長さ の棒を考えます。この棒

軸に平行に置かれてある物とします。


 棒の両端の座標を ,  とすれば、その長さは


            


で表わされます。

 ところで、この棒を速度 で動いている から見た

ら、どう見えるでしょうか。

          



 
から見ると、棒の方が速度  で、つまり反対方向に動いている事になります。

 そして、その長さは で同時刻 に観測した所の棒の  座標の差により与えられる筈です。

 そこで、棒の両端の座標を ,  と置いてみましょう。そうすると、その長さは



               


で与えられる事になります。

 次に、ここに、ローレンツ逆変換(2-1-10)


                


を持って来て、これに より観測した所の棒の両端の座標 ,  と時刻の とを代入

して、
S系での棒の両端の座標 を求めてみましょう。

 そうすると

                


が得られます。そこで、この得られた座標  ,   よりS系 に於ける棒の長さを求めてみます。

棒の長さ ですから、



                 


となります。ところで、この式の最後を良く見て下さい。最後の 
 
より見た所の棒の長さ

です。従って、この結果より《
S系 での棒の長さ》と《 系 より見た所の棒の長さ》との間には


                 

                    ( 注; 1/γ =  については (2-1-9)を参照



という関係のある事がわかります。

 そこで、この式を素人にも解かる様に言葉に置き換えてみましょう。そうすると、それは


   (
系 より見た棒の長さ)=  ×( S系 での棒の長さ


となります。


   ところで相対論では  は常に1より小ですので、



                 



 この結果は


     ( 系 より見た棒の長さ S系 での棒の長さ


という事になるのです。 そうすると、これは


 《 静止している棒を、動いている系から眺めた場合、その長さは、静止系で見るのに比べて

   の割合で
縮んで見える


という事になり、それはまた逆の見方として


  《
動いている棒静止系から眺めて同様に縮んで見える


という理屈にもなるわけです。そして、ここより


  《
動いている物体の寸法は、これを静止系から眺めると、本来の寸法より縮んで見える


という結論が得られるのです。

 これが、ローレンツ収縮の理屈です。



 これも、何の気なしに読むと、数式の解る人なら「なるほど!」と思わせられます。

 しかし、これも間違っています。


(C) 誤りの証明


 まず第一の間違いはローレンツ逆変換 (2-1-10)


                


での棒の両端の座標  , と時刻の とを代入すれば、S系 での棒の両端の座標

,  
が求まると勘違いしている事です。



 この式は、そんな事のための式ではありません。

 これは、光の走った距離時間の関係式ですから。


 次に教科書が設定している所の , , ,  は棒の両端の座標ですが、これを代入する

所の
ローレンツ逆変換の 棒の両端の座標ではありません。

 これは、光の到達点の 座標です。しかして、その実体は光の走行距離  軸方向

成分
なのです。

          



 具体的に申しますと、 は静止系に於いて光が走った所の距離 OP 軸方向成分ですし、

動いている系に於いて光が走った所の距離 O P′の  軸方向成分です。

 これを座標と解釈しても図 2-3-4 の中の ,P′点の 座標に限られます。

 けっして、棒の両端の座標などではありません。

 次に、ローレンツ逆変換の もまた光の走行時間でして、任意の時刻ではありません。

 そういうわけですから、ローレンツ逆変換をこのような設定に用いる事は出来ません。

 これは、間違っています。



 そうは言いましても、こういう意見に対しましては

 「
棒の両端の位置を図 2-3-4 の中に P1, P2点として置けば問題無いのでは

とおっしゃる方があるかも知れませんので、そうすればどうなるかを、やってみましょう。



 
棒の両端の位置を静止系の P1 点 、

2
の位置に置きます

そして、棒は 軸に平行ですから


     1 = 2 , 1 = 2


 
とします

 そうして図を作りますと、それは、図2-3-5 の様になります。

 ところが困った事に、ここでも


      1 =  2 ,    = 


とはなりません。


 これは前項と同じ問題です。

 設定では「これは に無関係で」とありましたが、ローレンツ変換を用いる限り無関係とは

なりません。


 設定の は系全体の時刻ですが、ローレンツ変換の は光の走行時間です。

場所が違えば光の到達時刻も違ってきます。当然、時刻は一致しません

 故に、 12  とはなりません。

 そうするとβ ′の項が消えませんから、(2-3-4)


        



ではなく

         

としなければならなくなります。

 ところが、そうすると、結論の が出て来ませんから、ローレンツ収縮の理論も
生まれて来なくなります。




 それでは不都合ですので β の項が消える様に

での時刻が一致する所、
の原点 O′より同一半径の球

面上に
P1点 と P2点 とを置いて見ましょう。



 図 2-3-6 のようにすれば での光の走行距離は一定です

から、光の到達時刻は
P1点でも P2点でも同じになります。

従って、動いている系での時刻も一致します。


 ところが今度は、棒の方が 軸に平行ではなくなってし

まいます。


 その上、S系 の時刻も一致しません。

 つまり、この様に矛盾を生じてしまうのです。

 かつ、ここの問題は前項の“同時性”の理屈に抵触して来ます




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