これは「動いている物体の寸法は、静止系から見ると実際より縮んで見える」という説です。
S系 で静止している長さ の棒を考える。棒は
軸に平行に置かれている物とする。
棒の両端のS系 の座標を ,
とすると
(2-3-1)
であって、これは に無関係である。
この棒を速度 で動いている
系 から見たらその長さはどうなるであろうか。
系 から見ると棒は速度 −
で動いており、その長さは
系 で同時刻
に観測した
棒の 座標の差により与えられる筈である。
系 での長さを
とすると
(2-3-2)
であるが、変換 (2-1-10) により
(2-3-3)
である事から
(2-3-4)
という関係が得られ
(2-3-5)
となる。従って 系 から見た棒の長さは
の割合いで収縮して見える。同様に
系 で
静止している 軸に平行な棒の長さは、S系 から見ると
の割合いだけ収縮して見える。
となっています。
これも、良く解からないと思われますので補足して説明します。
まず、S系 に置いてある長さ の棒を考えます。この棒
は 軸に平行に置かれてある物とします。
棒の両端の座標を ,
とすれば、その長さは
で表わされます。
ところで、この棒を速度 で動いている
系 から見た
ら、どう見えるでしょうか。
系 から見ると、棒の方が速度 −
で、つまり反対方向に動いている事になります。
そして、その長さは 系 で同時刻
に観測した所の棒の
座標の差により与えられる筈です。
そこで、棒の両端の座標を ,
と置いてみましょう。そうすると、その長さは
で与えられる事になります。
次に、ここに、ローレンツ逆変換(2-1-10) の
を持って来て、これに 系 より観測した所の棒の両端の座標
,
と時刻の
とを代入
して、S系での棒の両端の座標 と
を求めてみましょう。
そうすると
が得られます。そこで、この得られた座標 ,
よりS系 に於ける棒の長さを求めてみます。
棒の長さ は
−
ですから、
となります。ところで、この式の最後を良く見て下さい。最後の は
系 より見た所の棒の長さ
です。従って、この結果より《 S系 での棒の長さ》と《 系 より見た所の棒の長さ》との間には
( 注; 1/γ = については 式(2-1-9)を参照 )
という関係のある事がわかります。
そこで、この式を素人にも解かる様に言葉に置き換えてみましょう。そうすると、それは
( 系 より見た棒の長さ)=
×( S系 での棒の長さ)
となります。
ところで相対論では は常に1より小ですので、
この結果は
( 系 より見た棒の長さ)<( S系 での棒の長さ)
という事になるのです。 そうすると、これは
《 静止している棒を、動いている系から眺めた場合、その長さは、静止系で見るのに比べて
の割合で縮んで見える 》
という事になり、それはまた逆の見方として
《動いている棒を静止系から眺めても、同様に縮んで見える》
という理屈にもなるわけです。そして、ここより
《動いている物体の寸法は、これを静止系から眺めると、本来の寸法より縮んで見える》
という結論が得られるのです。
これが、ローレンツ収縮の理屈です。
これも、何の気なしに読むと、数式の解る人なら「なるほど!」と思わせられます。
しかし、これも間違っています。
(C) 誤りの証明
まず第一の間違いはローレンツ逆変換 (2-1-10) の
に 系 での棒の両端の座標
,
と時刻の
とを代入すれば、S系 での棒の両端の座標
,
が求まると勘違いしている事です。
この式は、そんな事のための式ではありません。
これは、光の走った距離と時間の関係式ですから。
次に教科書が設定している所の
,
,
,
は棒の両端の座標ですが、これを代入する
所のローレンツ逆変換の ,
は棒の両端の座標ではありません。
これは、光の到達点の ,
座標です。しかして、その実体は光の走行距離の
,
軸方向
成分なのです。
具体的に申しますと、 は静止系に於いて光が走った所の距離 OP の
軸方向成分ですし、
は
動いている系に於いて光が走った所の距離 O′ P′の 軸方向成分です。
これを座標と解釈しても図 2-3-4 の中の P,P′点の ,
座標に限られます。
けっして、棒の両端の座標などではありません。
次に、ローレンツ逆変換の ,
もまた光の走行時間でして、任意の時刻ではありません。
そういうわけですから、ローレンツ逆変換をこのような設定に用いる事は出来ません。
これは、間違っています。
そうは言いましても、こういう意見に対しましては
「棒の両端の位置を図 2-3-4 の中に P1点, P2点として置けば問題無いのでは」
とおっしゃる方があるかも知れませんので、そうすればどうなるかを、やってみましょう。
棒の両端の位置を静止系の P1
点 、
P2 点の位置に置きます。
そして、棒は 軸に平行ですから
1 =
2 ,
1 =
2
とします。
そうして図を作りますと、それは、図2-3-5 の様になります。
ところが困った事に、ここでも
1 =
2 ,
=
とはなりません。
これは前項と同じ問題です。
設定では「これは に無関係で」とありましたが、ローレンツ変換を用いる限り無関係とは
なりません。
設定の は系全体の時刻ですが、ローレンツ変換の
は光の走行時間です。
場所が違えば光の到達時刻も違ってきます。当然、時刻は一致しません。
故に、 1 =
2,
=
とはなりません。
そうするとβ ′の項が消えませんから、式 (2-3-4) は
ではなく
としなければならなくなります。
ところが、そうすると、結論の が出て来ませんから、ローレンツ収縮の理論も
生まれて来なくなります。
それでは不都合ですので β ′の項が消える様に
系
での時刻が一致する所、 系 の原点 O′より同一半径の球
面上に P1点 と P2点 とを置いて見ましょう。
図 2-3-6 のようにすれば 系 での光の走行距離は一定です
から、光の到達時刻は P1点でも P2点でも同じになります。
従って、動いている系での時刻も一致します。
ところが今度は、棒の方が 軸に平行ではなくなってし
まいます。
その上、S系 の時刻も一致しません。
つまり、この様に矛盾を生じてしまうのです。
かつ、ここの問題は前項の“同時性”の理屈に抵触して来ます。
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