(二) 各論の誤りの証明


 準備段階が終わりましたので、次よりは各論の問題点に入ります。

 各論のテーマは「同時刻の相対性」「ローレンツ収縮」「時間の遅れ」についてです。

 これらについては、何が問題なのかをはっきりさせる為に、教科書の記述をそのまま紹介します。

 しかしながら、学校の教科書というのは、えてして、解かりにくく書いてある物でして、そのまま

では、何を言ってるのかよく解かりません。


 そこで、原文の後に解説した文章をつけ、その後で、問題を論評する事にします。

 なお、教科書では静止系は K系動いている系はK′系となっていたのですが、これは私の文章の

都合上、
S系
と変え、式の番号も私の文章の番号にそろえる事にします。

 それ以外は手を加えません。


1 同時性(同時刻の相対性)


  これは「静止系の二カ所で同時に何かが起こったとしても、それを動いている系から見ると、

同時とは見えない」という話です。

 
a) 教科書では 



 
S系 という二つの点で同時刻 に起きた出来事は

では一般に同時ではなくなり で時刻  

で時刻  
に起き
たと観測される。 変換 (2-1-8) から




                 (2-2-1)



となるから

                                        (2-2-2) 


となって でない限り  とはならない。すなわち S系 で  の異なる

二つの場所で同時に起こったと観測される現象が、
では同時とは観測されないのである。


       (原文はこちら)



となっています。

 この文章では、はっきり言って、何を言ってるのか良く解かりませんので解説します。


b) 解説

 まず、静止系の中に P1 点 と P2

という二つの場所を置きます。

 そして、この二つの場所で同時に何かが起こったと仮定します。

 その時の時刻を としましょう。

 次に、この現象を動いている系から目撃したとします。

その時の
での時刻を

          P1 点 については

          P2 点 については



と仮に置いてみます。

 そうしておいて、ここに、ローレンツ変換(2-1-8


                       



 を持って来、これに S系 での時刻 S系での二カ所の座標  と   とを代入して での

時刻 
 とを求めて見ましょう。 そうすると、それは



                                     (2-2-3)

                                       (2-2-4)

となります。

 ここでもし、 の二カ所の時刻が同じであるならば  =0 になる筈です。

そこで、 より を引いてみます。 ところが、結果は


                           
 (2-2-2)


となりまして、必ずしも    とはなっていません。

 この式で  が 0 となるのは 
 の時だけです。


 そこより「 でない限り とはならない」となり、

同じ場所でない限り、
では同じ時刻とはならない」という考え方が生まれて来たわけです。

 それは言い換えれば「静止系の の異なる二カ所で同時に何かが起こったとしても、

それを動いている系から見れば同時とは観測されない
」という事になるわけです。


 これが「同時性」の理屈です。

 言われてみれば、「確かに」、「なるほど」、と思えて来ます。

 しかしながら、これは間違っています。



(c) 誤りの証明

 まず第一に、ここではローレンツ変換の


                  


S系での時刻 S系での二カ所の座標 とを代入して、 での時刻

とを求めていますが、誰が、
この式をそんな風に使えると決めたのでしょうか


 この式は、そんな事の為の式ではありません。

  ローレンツ変換は光が走った所の距離時間の関係式なのです。


 
これから、その間違いを具体的に説明していきます。

 教科書の設定では , ,  は任意の時刻となっています。

 
しかしながら、これを代入する所のローレンツ変換の ,

任意の時刻ではありません。


  これは、光の走行時間です。

   S系 において、光が O点から P点 まで走るのに掛かる

  時間ですし


  において、光が O′点から P′点まで走るのに

  掛かる時間です


 次に ですが

これも教科書の設定では任意の点の座標となっていますが、

 これを当てはめる所のローレンツ変換の
は任意の点の座標ではありません。


 これは、 2-2-2 の中の距離の です。

 これは、
S系において光が走った所の距離 OPの 軸方向成分です。

 座標と解釈しても P点の 座標に限られます


 決して任意の点の座標などではありません。



 従って、
ローレンツ変換を教科書の様な設定で使う事は出来ません

 これは間違いです。


とこう申しますと、こういう異論に対しましては


   “光が、時刻=0の瞬間に原点Oを発し、時刻 の時にP点に届いた”と解釈す

   れば を時刻とみなしても良いのではないか?

    図 2-2-2 の中では、P点は自由にとれるのだから、ここで設定している所の点を

   図 2-2-2 の中にP点として置けば問題は無かろう」



とおっしゃる方があるかも知れませんので、そうやったら、どうなるのかをやってみましょう。


 まず設定では、二つの点 とがありますので、

これを
P1, P2 点として 図 2-2-2 の中に任意に置きます。


 そうすると、それは、図 2-2-3 の様になります。

 ところが、ここで問題が生じます。


 設定では  は静止系全体の時刻の筈です。

 従って
P1 点 でも P2 点 でも時刻は同じでなければなり

ません。


 ところが、図 2-2-3で明らかな様に


          


とはなっていません。

 ローレンツ変換の は、元々、光の走行時間ですから、これを光の到達時刻と置き換えても、

系全体の時刻とはならないのです。

 P1 点 と P2 点 の位置が違えば、光の走行距離が違いますから、到達時刻も違って来ます。

従って とはなりません。


 ローレンツ変換の を時刻とみなせば、静止系の中ですら異なる位置の時刻は異なる事になって

困った事になります。


 そういうわけで、ローレンツ変換の を時刻に を座標とみなしても、うまく行かないのです。


では全く駄目なのかと言うとそうでもありません。




(d) 式の意味の勘違い


 実は、このやり方でも“同時刻の相対性”の理屈を成り立たせる方法があるのです。


 それには、どうすれば良いのか。

  それには、まず、静止系の時刻が一致する所つまり

 
となる所を探し出し、そこに P1点 と P2

とを置く事です。

 その位置は静止系の原点Oから同一半径の球面上です。

 ここに
P1点とP2点とを置けば、静止系での光の到達

時刻は皆同じになります。距離が同じですから。



 かつ、動いている系での光の到達時刻は一致

しません。


 従って、ここでなら式 (2-2-2)


               


は成り立ちます。

 そして、ここでなら「静止系の の異なる二カ所で同時に何かが起こったとしても、それを動い

ている系から見れば同時とは観測されない」という理屈はこじつけられます。


 「同時性(同時刻の相対性)」とは、実は、こういう特殊な条件下で成り立つ式の意味を間違って

解釈した物だったのです。



 確かに、こういう限定条件下でなら、そういう理屈も成り立つでしょう。


 しかしながら、これは、この球面上でのみ成り立つ理屈ですから正しくはありません。

 球面を一歩でも外に出たら最後、静止系ですら同一時刻は存在しません。

 そうなると、任意の場所に自由に座標を設定する事も出来なくなります。


つまり、 この様に矛盾を生じてしまうのです。

 これでは、一般性を持ちません。

  従って、同時性の理論は誤りとなります。




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